※この話ではCの世界=死後の世界となっております。原作とは恐らく捉え方が違うと思うのでご注意を…
※この話は基本的に死んだ人ばかりが出てきます。ユフィ、シャーリー、ロロなど。
※ルルーシュは死んだ設定です。あと星刻も。
※C.C.は死んでいませんがご都合主義で死後の世界に行き来可能です。
※詳しい説明は追々話の中で出てきますので、ここには書きません。
※スザルル中心と言っておきながら、スザクはちょっとの間出てきません。でもちゃんと出てきます。
※むしろ最初は星刻が主人公なのか、というほど彼が出張っています。
※全体的に捏造甚だしく意味のわからない話です。

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眼を開けたとき、初めに映りこんだのは恐らくこちらを覗きこんでいるのであろう、緑色の髪を揺らす美しい少女だった。涼しげな目元がゆるりと上がり、口元が性質の悪そうな笑みを湛えたのを見て、どこか頭の片隅にある記憶が蘇ったような気がした。
「君は…?」
「起きたか、星刻」
聞こえた声は、明らかに目の前にいる女のものではない。低く落ち着いた、けれどどこか甘い響きが残るような声。聞き覚えは、まるでない。初めて聞くものだと星刻は思った。その声がした途端、目の前の少女は猫のように素早く身を翻し、視界から消えた。真っ白い天井がはっきりと見えて、指先が触れているのが真新しいシーツの感触であることに気がつく。その時初めて自分がベッドに寝かされているのだとわかった。
(何故?)
疑問は、際限がなかった。そもそも、此処がどこかも思い出せない。覚えているのは、「星刻」というのが自分の名であることくらいだ。何か事情が聞けるだろうかと、ゆっくりと身を起こし声のした方へ体を向ける。

「体調はどうだ?」

白衣を着て、縁のない眼鏡をかけて、無表情にただこちらにそう聞いてきた男は、酷く整った美しい顔をしていて、それが何かを思い出させようと自分に訴えかけているのを感じた。その隣では、先ほど目の前にいた少女がにやにやという形容が誰の眼から見ても相応しいというような顔をして、じっとこちらを見つめている。そして彼女が身に着けている洋服は、何故か真っ白のナース服だった。
「と言っても、悪いわけはないんだがな」
独り言のように、無表情の男はそう言って微かなため息をついた。
「なんだ、意外とノリノリじゃないか」
「お前と一緒にするな」
そう言って、男のほうが初めてその随分と端正な顔に変化が訪れた。女と同じような、どこか性質の悪そうな笑みはますますシンクーの眉間の皺を増やすばかりではあったが。
「おい、君たちは…」
「あぁ、気にするな。お医者さんごっこの一環だ」
一瞬、相手がなんと言ったかわからず、だけれどその言葉の意味を理解した途端、ふと苛立ちのようなものがふつふつと胸に沸いてきた。訝しげな表情をどう解釈したのか、男のほうがどこか焦ったような声を出す。
「俺としては不本意だ」
「何を言う、私はここに閉じこもりっぱなしのお前を気遣って、こうして色々と趣向を凝らして発散させてやってるんじゃないか」
「お前がしたいだけじゃないのか…」
男は深いため息を吐いたが、女のほうはただ今までと同じように性質の悪い笑みを浮かべ、そして男の反応を楽しんでいるのか、酷く喜色に滲んだ声を出す。だが完全に疎外されてしまっているこの状況に、自分のの苛立ちは増すばかりであった。なのに、目の前の二人がまるで気づいている素振りも見せない。あるいは、気づいてはいるがそれを酷く瑣末なこととして扱っているかのようで、そう思うとますます苛立ちを隠すことは難しくなっていた。
「おい、君たち…」
何か説明しろ、とそういう類のことを言おうとして、黙ってしまったのはこちらに視線を戻した男の目が、不敵な色を滲ませて、けれどどこかなつかしいものを見るように細められもしたからだ。そういう表情に驚いたのは、たぶん自分の曖昧な記憶の中で、この男がそんな顔をしたことは一度もなかったからなのだろうと無意識の内に察した。
「診断結果だ、黎星刻」
芝居じみた仕草で、回転式の椅子がくるりと一周回り、振り返った男の顔は先ほどとはまるで違っていた。よく通っている声は、何かを思い出させるかのように、胸のうちに嫌悪感を抱かせる響きがある。
「お前は死亡した。死因は多剤耐性の肺結核による喀血だ」
一瞬、何を言っているのかまったく理解できず、ただまるで口上か何かを歌い上げるようにそれを言い切った男の、そのどこか切なそうな顔を凝視する。死んだ、とは、一体何のことなのだろう。その後に続く言葉も、まるで音の羅列のようにただ淡々と自分の頭を通り過ぎていく。
「随分若くして死んだようだ。さぞ無念だったことだろうな」
深く吐き出された溜息は、芝居がかりすぎていて少しもそれを残念に思っているようには見えないものだった。だが、それに嫌悪を感じる暇もない。少しずつ、曖昧に自分を刺激していた記憶が膨れ上がってきている。そうだ、この男が、自分に嫌悪感を感じさせる理由だ。
「中華連邦にとっては、大きな痛手だ。天子様も大層悲しんだことだろうよ」
男の言葉の続きを汲み取るように、まるで表情を変えず、女が言った。そしてその台詞に、頭の中のどこかで膨れ上がっていたものがはじけとんだような気がした。
(天子、様)
途端に蘇ったのは、無様に血を吐いていた自分、そしてそれを悲しそうに見つめる仲間たち、幼い少女。その時、世界は確かに混沌に満ち満ちていたが、ただ何か希望のようなものを誰もが抱いていた。そういう酷く前向きな風潮の時代だ。そんな中で、死と向かい合うしかなかった自分に、幾度となく無力さに打ちひしがれた。彼女はまだ幼く、誰かが導いてやらねばならない存在だったのに。そして、その、時代の象徴である、黒服を纏った男に、自分は何か言葉を託したような気がする。
(そうだ、あの男が、全てを始めた)
あいつを殺すことによって、始めたのだ。
「ル、ルーシュ?」
男が、少しだけ虚を付かれたように、眼を見開いた。そしてすぐにその眼を細めて、美しい笑みを見せた。
「正解だよ、星刻」
次に、沸き起こったのは決して嫌悪感だけではなかった。どこか掴みどころのないような、悲しさや虚無感、そして決して消化できないような、胸に張り付いた罪悪感だ。あの時、恐らく自分たちは彼を奪ってしまっていた。今彼の隣に居る女からか、妹だと言っていたあの強い眼をした少女からか、黒い服を纏ったあの得体の知れない男からかは、判断を下すことは出来なかったが。男は、そんな自分の内心を知ってかしら知らずか、特に何を気にかける風でもなく椅子から立ち上がる。その姿を、無意識に視線で追ってしまった。
「ここはCの世界、あるいは天国か地獄か」
また芝居じみた声で、彼はゆっくりと自分の目の前に立った。いつのまにか、その隣に移動していた少女は少しだけ方を竦めながら「つまりはあの世ということだ」と言った。
「一生、俺たちは此処から出られないんだ。仲良くやろうじゃないか」
差し出された手は、確かに男性的な骨格のものではあったが、その肌の白さや細さはまったく逆の印象を与えてくる。その声音や、かつては従う対象であったことや、彼への罪悪感がそれに逆らうことを許さず、自分は何も考えないままその手をとっていた。随分と頼りない感触が、不思議な違和感を残していく。
「ようこそ、Cの世界へ」
そう言いながら浮かべられた笑みは、やはり美しかった。