天井が高い分、轟音だけが響く。横で修理を施されていく機械たちを見上げる少女は、ピンク色の髪を揺らして鋭い眼光をそれらに向けていた。恐らくそれは頼もしい姿だ。その鋭い眼光が、ふわりと地面に落ちそして自分に向けられる、その頃には、柔らかいものへと変化している。器用だ、と考えた。もうひとりの少女は酷く明るい人だが、この人はまったく違っている。よく戯れのように肌が荒れて困るとか、ショッピングに行きたいとかそんなことをぼやいている。けれどこの少女はどこか物静かだ。いつだって何も言わない、少女なりに年相応らしいこと(それがどういったものかはよくわからないなりにも)で言いたいことくらいあるだろうに、彼女は決してそれらを口にしない。先日、あの明るい人はどういう経路で手に入れたかはよくわからない、ファッション誌を嬉しそうな顔で自分に見せ付けてきた。それがファッション誌なのだと、知ったのは彼女に言われてからだったが。しかし思い返せば、この少女がそういった部類の華やかなものを捲っていたことがあっただろうか。それは興味でもなく好奇心でもなく、単なる頭の端に生まれた疑問だった。
「フェルト・グレイス、君は買い物に行きたいとかは言わないのか?」
唐突であるとはわかっていたが、轟音の中で呟いた問いをこの少女は確実に受け取ったようで、そして少しだけ目を見開いて首を傾げた。それが以前より大人びて見えたので、人とは変わるのだと改めて実感した。
「どうして?」
「君がそういうことを言うところを、見たことがない」
すると含み笑いをされた。珍しいなと微かに思ったけれど、それが本当に珍しいのかなどわかるはずはなかった。口元を抑えながら、「ティエリアだって言わないじゃない」と掻き消されてしまいそうな声で言う。どこか虚を突かれて、けれどそれが何を意味しているのかがわからなくてただ「あたり前だ」と思った通りのことを返したけれど、彼女はやはり口元を抑えたままだ。あぁやはり、どれだけ違っていても年頃の少女ほど読めないものはない。何を考えているのかなんて、わかるはずもないしわかりたくもなかった。以前よりもほんの少しだけ饒舌になった分、たぶんもっとわからなくなった。その自覚があった。確実に成長を遂げているからなのかとか、それすら概念のない自分にはわからない。
「だって、」
耳に劈くのは運搬車の無駄な唸りや、広い空間で響く整備の司令塔の声でそのどれもが粗雑だ。恐らく、似合わないのだろう。年端もいかない少女が、あの雑誌に映っていた華やかな衣類とは程遠い地味な制服を着込み、こんな場所で佇んでいる。
「私、ここで死ぬから。だからいらないんだと思う」
その言葉が、するりと頭の中へ入り込み、疑問を溶かした。そして、『自分も言わないじゃないか』とそう言った理由を察した。何ひとつわからないそんな自分ですら、簡単に読み解ける答えがそこにはあったのだ。単に、彼女も此処から外へ出るつもりなどないということ。わかりやすい答えに満足して、そのまま飲み込んだ。限定された場所で生きていくことと、そこで死ぬことはイコールだ。彼女も自分と同じで、意味のわからない行動をする少年よりもずっとずっと理解がしやすく、共感すら抱けるような気がした。
「納得した、フェルト・グレイス」
「ならよかった」
抑揚のない高い声、それと響く轟音も、似合わないのではなかった。ただ共に生きるべきものたちだからと、そんな概念はいらなかったのだ。それならば全ては明白、頭の端に生まれた何かは砕かれ、訪れたのは以前と同じ足元を蔦で絡まれるような安心感だ。年端もいかぬ少女の言葉や、全てを何かに委ねている自分の愚かしさに胸を締め付ける人たちがいることなど、まるで知らなかったのだから。







Rachael

091113
再録