ゆっくりと口が開かれるから、自分もそれに従うようにゆっくりと手を近づけた。掴んでいるのは、小さな飴玉だった。半透明のピンクが、真っ赤な光を透かしている。まるでガラス玉のようにしか見えないそれを、猫に餌を与えるようにして、彼の咥内へ押し込んだ。一瞬、何かを詰まらせたような声がする。見ると、驚いたように目を見開く彼がいた。甘いものを強請ったのは雲雀の方なのに、何故か彼は酷く驚いている。与えたのはこちらなのに、突然に何かを奪われてしまったみたいな目をする。なにが不満なわけでもない。ただ、彼の心理が自分の見えない場所へ行く時(しょっちゅうだろう、と言われてしまえばそうなのだけれど)自分はどうしてか不安になるのだ。だから、聞く。簡単なこと。よくある単純な構図で次の行動を導き出すだすだけの自分は、たぶん馬鹿だ。
「・・なぁ、ヒバリどうかしたの?」
答えはなかった。そして、その代わりと言っては難だが、パキンと何かが割れる音がした。静寂であるこの部屋では嫌に響く。たぶん、彼の咥内の中の飴玉だ。あの半透明でピンク色の、ガラス玉みたいに美しかった、あの飴玉だ。続いて鳴る、それらが砕かれていく日常によくある音を聞きながら、「噛むなよ」と笑って言う。
「別に、食べ方なんて僕の勝手だ」
そう言った。ああそんな返し方だったか、と思いまた彼を見ると、今度はしかめっ面をしている。先程の何かに驚いたのかという複雑な表情ではなく、ただ顔を顰めていた。自分はその顔を覗き込み、彼は何かを主張したげに口を開いた。「うわぁ・・酷ェ、」そこでは、健康そうな歯茎が流れ出た血が、半透明の美しいガラス玉と混ざり合い、どこまでも生々しい光景が作り上げられていた。自分が呟いた、叫びとも或いは感嘆とも取れるような言葉を前にして、彼はさらに主張を続ける。「痛い」と静かに言った。
「そりゃあなー。飴で切ったの?」
「其れ以外に何があるの」
「まぁ、でも我慢してれば、咥内の傷はすぐ治ると思うぜ」
このまま頭でも撫でてやろうか、というそんな雰囲気だった。宥めるように言うと、彼は幼い子のように黙るから、いつもこうしている。たぶん、困惑しているのだと思う。彼はきっとどう返せばいいのかわかっていないのだ。そうして、少しの間、やはり彼は黙る。するとまたぽつりと、「痛い」と主張した。見上げてくる不機嫌な目が、どうにかして欲しいと訴えているように見えるのは間違いではないのだろう。
「我慢するしかねーよ、ヒバリ」
言いながら、いつのまにか口端に到達した一滴ほどの血を親指で拭ってやる。たぶん、患部を舐めて舌で、そのまま口端も舐めただけなのだろうけれど。その行動が不服だったのか、彼は落ち着きのない子供みたく、肩だけを蠢かして静かな抵抗をする。
「・・・君に言われなくても、知ってるよ。そんなこと」
口元が、痛みに耐えるように静かに震えていた。