予想があたったということに、気が付いた時感じたのはあいつの在り方に対する空しさだった。












「詰まるところ、お前は大事な鳥は広い庭で放し飼いにしたいタイプだったわけだな」


そこは、庭であることにすら気付かないような、ごく自然と周囲に馴染んでいるような場所であって欲しいのだろう。それはごく一般の家庭を切望していた、こいつらしい理想の作り上げ方なのかもしれない。
「いきなりどうしたんだ、お前」
「いや、いかにも自分勝手な奴が考えそうなことだと、そう思っただけだ」
突き放すように笑って見せると、そいつは些か不機嫌そうに眉を潜めはしたが、しかしそれはすぐに解かれて呆れたような溜息を吐くばかりだ。死に装束のような、まっさらな服にその表情はよく似合っている。最近、こういう反応が増えたように思う。少しだけこちらを馬鹿にしたようで、あたたかみがあるような、そんな反応が。決して悪い気はしないのだけれど、張り合いがないのもまたつまらないものだ。今日ぐらいは、もう少し、深く突っ込んでやってもいいんじゃないか。ぬいぐるみを抱きしめる力を弱め、私はくるくると回る頭に身を任せるように深く柔らかなソファの背にもたれた。
「考えてもみろ、残されたものはどうなるんだ。お前が作り上げた庭に、一生気が付かないとでも思うのか?人はそこまで馬鹿でもないし、意外に学習能力だってあるものだ」
珍しく、反論が出来ないのかあえてしていないのか、先ほど解いたはずの眉をまた顰めながら、けれど怒ったようにではなく些か驚いたような目でこちらを見つめている。ここまで喋っている自分を珍しがっているのだろうが、その視線に何故か苛立ち、また突き放すように笑ってやる。「ほら、反論できていないじゃないか」。勝ち誇ったような笑みを見せれば、そいつは腹立たしいことに何故か噴出して顔を伏せた。「お前、なんかおかしいぞ」と笑いを堪えた声が、高い天井に響き渡る。あぁ、負けた、とその時ふと思った。人の些かのやる気も、こいつは削ぐことしか出来ないのか。いくら、言ったところでこの男にはわからないのだと思う。あるいは、このまま生きていけばどこかで気が付くことはあるのだろうけれど、しかしそれは瑣末なことでしかないのだろう。生じる矛盾や、相手の不満や不安がどれだけ大きいものだったとしても、関係なく彼はきっと繰り返すのだろう。なんて傲慢で、自分勝手で、寂しいのだろうか。けれど、それがこいつの優しさだ。時々、考えるのだ。彼がもっと、もっと何のわだかまりもないような穏やかな場所で生きていたとして、まだそれを繰り返すのだろうか、とか。だとするなら、お前は生まれ変わっても、きっと高く飛び続けるんだな。
「笑い話のつもりじゃないんだがな、ルルーシュ」
「わかっているさ、ナナリーのことだろう」
知った風な、その口振りに私はまた呆れた。何が「わかっているさ」だ。お前は、何にもわかっちゃいない。いつだって、たぶん本当の意味ではわかっていないのだろう。思いが伝わっていないわけじゃない、それがこいつの生き方にとっては些細なことに過ぎないというだけで。そしてだからこそ酷く面倒で、どうしようもなくて、周囲の人間だってどうすることも出来なくなる。
「嘘だな。わかっていないだろう」
嘲笑うようなこの口調は、たぶんわざとだった。また、白い顔に不機嫌な色が挿して、今度はそれが消えずに残ったことに満足したのか笑みが漏れた。すると、それがさらにそいつの顔をしかめさせていくから、無性に大笑いがしたくなる。自分でも悔しいのか、ただ口喧嘩がしたいのか、よくわからない。そいつは眉を潜めたまま、先ほどよりも些か棘のある声で話し出す。
「わかってるさ。大体お前の例え話なら・・・」
「違うんだ、そうじゃなくて」
「・・・一体、何が言いたい」
余裕さを欠いた声音が宙に浮く心地で、あぁやっぱり私が勝った、などと取りとめのないことを考える。
「別に、馬鹿にしているわけじゃないんだがな」
「嘘をつけ」
「本当だよ。ただ、お前には、まだわからないことなんだ」
どこまでが愛でどこからが押し付けかなんて、きっとわからないだろう。そもそも、そんな定義はどこにもないのだ。あるのは、お前の中にだけだよ。そう思って、振り返った瞬間に交わった視線は、やはりどこか不機嫌さは含まれていて。疑問ばかりを表情に浮かべる彼が、どこか可愛らしく見えて面白い。あまりにも年相応で少年らしいものでまた笑いが止まらなくなる。そうだ、彼は、まだ18歳のこどもなのだ。途端に胸に溢れ出したのは、抱きしめてやりたいというただそれだけで、その安直さに思わず顔を伏せて笑ってしまう。強い庇護欲を抱いたまま、穏やかに息を吐いた。いつだって、彷徨う指先は酷く不器用なまま。けれど眩いばかりの光で溢れるアメジストを見つめていると、ただ優しくありたいと思ってしまうのだから不思議だ。傲慢で、酷く身勝手な男だというのに。ふと、こいつの妹の姿が頭を過ぎる。ただひたすら受身であることに耐えていた兄を想う少女も、こんな風に手を伸ばしたいと願うことがあったに違いない。だとするなら、酷い奴だよ、お前は本当に。
「いいんだ、わからなくて」
お前は、どうせお前らしく在り続けることぐらいしか出来ないのだろう。結局、止められる奴なんてこの世にはいないのだ。あの少女ですら、突き動かす要因にはなれど止めることの出来る存在には成り得ない。泣いても縋りついても、根本的にこいつが変化することなどきっとないのだ。本当に、傲慢で身勝手で、優しくて悲しい男だ。なぁ、ルルーシュ。お前はどうせ変わらないのだから、ならば今日ぐらいは、不器用な指先を思うが侭に伸ばしても許されるだろうか。







BALDWIN

081116
何気にほだされていくC.C.がテーマでしたが脱線した