項垂れ、思い詰めた表情で向かいに座る青年を、自分は鬱陶しくまた哀れに思った。伏せられている目には明らな疲労の色が濃く滲んでいて、肩は重圧に耐え兼ねたように震えている。一瞬、それを抑えるような仕草を見せたが、大した効果はなくそれは終わっていた。
「あなたは、一体何がしたいのか」
静かにつぶやいた問いに、彼は重い口を開くことが出来ないようで、長い沈黙がこの部屋に訪れた。窓枠を通じて差し込む夕日の光は目に毒だと、この時自分は場違いにも考える。やはり、この人が落ち込んでいる様子を見るのが鬱陶しいのかも知れない。考え込むのなら、何所か別に場所に行けばいいものを、とふと思う。それからはまた沈黙があり、彼は顔を上げた。所謂「酷い顔」のそのままの顔を彼はしていた。無意識の内に溜息が漏れたのは、やはり鬱陶しかったからなのだろう。その酷い顔をした彼は、しばらくの逡巡の後にひっそりと口を開けた。とても重そうだった。
「お前には、どういう風に見える?」
答えが見つからずはぐらかしたというには、その問いには真摯な響きがあり、けれどどこか彼の本心に沿っていないような違和感がある。やはり、今日の夕日は目に毒だ。逃げるように考えた。深刻に思い詰める相手と、それを鬱陶しく思い投げ遣りな自分。どう考えても嫌な状況だ。疲労の色隠すことの出来ない彼に対する鬱陶しさが、どことない苛立ちに変貌した。
「僕には、自分の尾を必至で噛み潰す蛇にしか見えません」
彼は大して表情も変えることなく、「そうか」とかそんなことを言いまた顔を下げた。少し自嘲しているようにも見えたし、ただ単純に言葉を受け取ったようにも見えた。何にせよ、彼の肩相変わらずに震えていて、自分は苛立っていて、そして夕日はやはり目に毒だった。
080216
再録