午後特有の白い明かりが照らすせいでどうしようもなく透き通ってしまった咽を、自分は猫の相手をするようにくすぐってやる。さらさらと、表面をなぞる手触りはどこか柔らかさがある。くすぐったいと笑う猫のように扱われている彼は、その柔らかさとよく似ていた。とても上品とは言えないけれど、それでも彼が笑っていると誰も嫌な顔などしない、それは彼がそれだけ疑いの持たれることのない無垢な人間である証で。どこまでも真っ直ぐで、濁りがないその感覚とはよく似ていると思うのだ。くすぐる手を止めて、じっと彼を見つめる。不思議そうにしながら、その柔らかで明朗な目がこちらを覗き込んだ。
「―――どうかした?」
「別に何も。くすぐってみただけだ」
「ふぅん、そう」
すると、ふいに宙を飛んだ視線は、何処かへ投げ出されたようになって、そして彼を照らしていた柔らかな光へ向いた。嬉しそうな顔をしながら、その光を一身に浴びている彼はまるで光合成でもしているみたいだ。そう思ってくすりと笑うと、何がおかしい?、というように今まで別へ向いていた彼の目が振り返った。大したことじゃないが、と言いひとつ間を空ける。
「お前、もしかして植物なのかと思ってな」
「・・・はぁ?」
彼は、訳がわからないというニュアンスを顕わに含んだ声をあげた。いつも、どこまでも率直な反応するのだ。冗談だよと揶揄するように言ったけれど、それで何が収まるわけでもなく、さらに混乱した表情(さっきの科白に対してというより、たぶん僕に対して混乱しているのだ)を複雑にしていた。そうして、その内に、お前は大丈夫か?―――と暗に言いたげな表情に変わって―――そして、さらに口にしてしまうところがいかにも彼らしいといえばそうなのだけれど。
「別に僕の頭はおかしくない、が」
「いや、つーか・・・」
「たまには、空想に耽ってみるくらいいいだろう?」
遠くの誰かに訴えるような口調で言った。彼は、ふぅん、とよくわからなそうな顔をして、またあの柔らかな白い光に目を逸らす。僕は、また明朗な目に光が差して、そうしてそれが僕の方へ向かえばいいと思いながら、彼をひたすらに見ている。
080216
再録