そのまま、どれくらい泣いていたかは覚えていなかったけれど、少なくとも他の誰かが来る前に「寮に戻った方がいい」と彼に勧められて私はそれに頷いた。困らせてしまったと、酷く後悔する帰り道、誰かに声をかけられたけれど誰だかはわからなかった。帰ってからもずっと泣いていて、夕飯に出なかったせいか心配して様子を見に来た会長が、頭をひと撫でしてくれた。ルームメイトは気を遣って何も言わずに、ただ就寝時間におやすみと優しく言って電気を消してくれた。悔しかったし、なにより申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいだった。なんで、あんなに取り乱したのかも今となってはよくわからなかった。本当に、些細な嘘だったのに。シャープペンシルだって、ただ苛々して壊してしまっただけかもしれないのに。彼と、明日どんな顔で会えばいいのかなんて見当もつかなかったし、こんな腫れた目で皆に何かを言われないかも心配だった。でも、それでもやはり彼の嘘が一番苦しかったかもしれない。些細なものだとわかるし、そう言い聞かせたけれど、とてもとても苦しかったのかも。もう、よく覚えていない。たぶん、ひたすら、何もかもが憂鬱だった。ただ、私はその夜、私が両腕いっぱいで、彼を包んであげられる、そんな幸福な夢を見たのだ。それだけはよく覚えている。朝目覚めた時、それはとてつもなく誇らしいことに思えて憂鬱など一気に吹き飛んでいた。確か、ルームメイトからあまりの変貌振りに苦笑いされるほどだった。そう、あの時から、ずっと私は彼の本当になりたかったのだ。そして、それが嬉しくてたまらなかったのだ。ねぇ、そう思うなら、今両手で握っているこの銃だって、あの夢のようにとても誇らしく掲げられる。堅いこの感触は酷く怖いものだけれど、きっと、先生を撃った時のようになことが今の私には出来てしまうに違いない。もう、なんだっていい。あなたに、どれだけ小さくとも嘘をつかなくていい場所を与えられるのなら、それでいい。あなたをこの腕いっぱいで守れるのなら、それでもう構わない。独りになんかさせたりしない。私は、恋はパワーだという、あなたに向かって心から叫んだ私の言葉を信じている。そうだって、人生一度きりなのだ!どんなに無謀で馬鹿で浅はかだとしてたって、私は恋するあなたの為に生きてゆくから。







BALDWIN

080724