彼が捕虜を拾ってきた件で、自分はようやく気づき始めたことがあったのだ。そう、ユウは人間だった。馬鹿みたいな話で、しかしそれはとても忘れやすいものだ。彼は人間なのだ。自分と同じ。そう思うと、世界というのは少しの角度を変えて現れる。勘違いしていたというのに、気づきもせず見過ごしていた彼の盲点を自分は見つけた。そして、今まで見過ごしてしまっていた自分が酷く愚かに思え(実際に途方もなく愚かであるのだが)途端、内側から食い潰すような痛みがじわりと広がる。あぁなんてことだ。けれどこの痛みは自分の行いに対する当然のものであることに間違いはない。虚像もいいところ、と云うほどの勘違いの人柄を自分は彼に押し付けていたのだから。
先刻の、あの捕虜の少年との会話を思い出す。12前後くらいの、痩せて背もあまり高くなく、此処にいる奴らと同じように荒んだ目をした少年だ。髪は何故か知らないけれど白髪で、左眼にはおかしな傷を携えている。なんとなく、あぁこの子ならば確かにあの広大な荒地であっても見つけることが可能なように思った。それは奇怪な風貌のせいでもあるのだが、何より彼の纏う雰囲気はとてもおかしなものだったのだ。上手くは言えないけれど、この世のものとは思えない、何かが彼の背後にある気がしたのだ。
会話ができたのはほんの偶然で、ただ彼をテント内で見張る筈の男が眠りにこけていた為に、自分がこっそりと侵入し、その少年に声を掛けたというだけのこと。交わした言葉も、当り障りのないものと、自分の興味本位でしかなくて、それでも彼の背後にある何かが網膜に焼き付いている。見えないのに、何故かあった何か。そうしてその子は、それを重そうにでもなく軽く担ぎ上げるような風で、立ち上がり、荒んだ目で自分を見た。そんな覚えがある。あいつの目は、もしかしたら自分よりも荒んでいたかもしれない。それほどに、生気というものを感じ取ることが不可能だったのだ。それでも、自分にとってはやはりこの閉塞した空間においてのゴシップ収集の方が先決していて、彼の存在の追及よりも、当り障りのない質問をした後、待ち切れないというようにユウのことについて問うた。
「なぁ、拾ってくれた奴、どんな奴だった?」
「・・・目つきが悪かったけど、でも、優しいひと、でした」
その子はそう言ったきり、黙ってしまう。一言一言が掠れるような声で形成されていて、聞き取ることは難しかったのだけれど、でもわかった。「優しいひと」だったと言っていた。そうして、自分は今までのユウの行動をひとつひとつ丁寧に思い出しながら、その言葉と比較してういった。全ては無意識の内に。そのひとつひとつは、まるでその言葉と関連付けられる余地などなかったのだが、でもその時の彼の意図を察しようとすると、あぁこの少年がこういう風にユウを表現するのも納得がいくのだ。
間違いない。彼は、優しいのだ。言葉がキツイだとかそんなんじゃなく、彼は本当に優しいのだ。そうして自分は、ただ自分の視界の狭さや愚かさを悔いて煙だらけの空を見つめる。
070621
再録