「あのですね」
合わせてみた手は、自分の方が一回り大きかった。年齢のせいだろうか。それにしれも、いつも思うのだがこうして見る彼の肌の色は白かった。女の子特有の白さみたいなものじゃなく、なんだか色を失ったような白さ。髪の毛の色と同じ原理で白くなったのでは、と疑うほどだ。呆れたような溜息と言葉を吐き出した口も同様に色失っていて、けれどそれはどちらかといえば少年らしい仕草で閉じられた。そうか、彼はまだ、少年だったか。青年と少年の堺とやらを自分はよくわかっていないが、もしかしたらそれは自分と彼の間に引かれているかもしれない。じっと見つめていると、彼はまた溜息を吐き出した。何処か自暴自棄になったようにぼうっとする、そんな自分に呆れている、ということはよくわかってる。彼は重そうに、口を開いた。言葉を紡いだ。
「今を、あーだこーだ言っても」
そこでまた、言葉を切った。続きは聞きたいような、聞きたくないような、そんな気分だった。例えば、とても読んで欲しい本を母親に渡して朗読してもらうが、読んでもらっている間に眠くなり、そちらに意識を持っていかれたような、そんな夢見心地のようない空間にいた。そんな経験はないので、あくまでも空想上の話でしかないのだが。アレンはそんな自分の態度を、相変わらず呆れて見つめている。自分は少し笑ってみた。彼は、困ったように視線を泳がせた後、呆れながら少し笑ってくれた。そうしてまた続きを話し始めた。
「しょうがないんです。何も、始まらない。始まるわけがない」
「何でそう、思うんさ?」
「だって、僕らには動かせるものがない」
止めて置きたいものならたくさんあるけれど、と付け加える。あぁそう。素っ気無いというよりも、理解ができていないというような声をあげた。アレンはさらに呆れる。そして、呆れながら寝惚けた頭には少し難しい話をし始めた。こうやって、触れることで立場が変わるわけじゃなく、けれどこのアンバランスな状態を保っていたい。ようは、どうせ会って触れたいだけなんだ、と言った。投げうる覚悟はないが、死守する覚悟もない。そういうことだと。もっと長かったような気もするが、大まかにはきっとそんな感じのことを言っていたと思う。ふと、そこで合わせていた手が強張った。不安になったとき、こうするということを自分はなんとなく知っていた。「だから、我慢なんていらないですよ」蚊の鳴くような声、とはまさにこの事だろうと言うほど弱々しく呟く。お互い、泣かなかったことだけが幸いだと思った。
080216
残留