元々そんなに綺麗な部屋じゃなかったことは認めるが、それでも何をどうしたらこんなことになるのだろうと思えてくる。絶妙なバランスでひしめき合っていた本やらガラクタやらは見事なまでに崩れ落ちて、今や畳も見えないほどに無残に散らばっていた。はぁ・・・と溜息をつく。自分の横で座ってバツの悪そうに、けれどどこか楽しげににやにやと笑う二人組は、これを元に戻す苦労なんてまるで知りもしないのだろう。自分達がやったというのにどれだけ無責任なのだろうか。というか罪悪感とか、そういう類のものはないのだろうか。いや、この二人が無責任な人間なわけではなく、ただ単にこの事態がこれほど自分を落胆させるものではあれ、彼らの目から見れば大したことはないというだけなのだろう。そこがまたむかついた。

「あのなぁ、どうやったらこんなになるんだ?」
「どうやったらって・・・ねぇ?」
「なんかこう・・・探してたらいつのまにかなっちまったんだよ」

どれだけ落胆していようが、この悪びれもないヘラヘラとした様子を見ていると怒る気もなくなってくるというものだ。自分の二度目の溜息に、ようやく平八が「あれ、もしかしてまずかったか?」なんていい始める。ただ天然か・・・いや確信犯よりは幾分かマシか。すると平八の態度が伝染したかのように鴇も、あれそういえば紺ってここで暮らしてるんだっけ?なんぞ今更なことをぬかし始めた。随分と前に言ったことだろうが・・・と突っ込む気も失せてしまう。怒る気が失せてしまうのと同じように。

「あー、確かにこれはマズいね・・・」
「うん、寝る場所ないしな・・・」

「お前ら、今までなんだと思ってたんだよ・・・」


本当に、今更としか言い様のないことを口々に呟くので問うてみれば、なんか自分の家の一室が散らかったとか、物置が散らかったとか、と今度は酷く勝手なことばかりを言い合い始める。まぁあっちの世界から来た鴇がこの部屋を家の一室と考えてしまうのならまだわかるが(でもそれさえもだいぶ前の話なのだから、適応力も高いんだし早く慣れろと思う)、平八がこの部屋のことを物置というのはかなり失礼極まりないことなんじゃなかろうか。とにかく早く片付けなければと思い、一番手前にあった本をどかす。そこで一度息
をついた。このままいったら、もうすでに日は暮れかかっているので夜が明けてしまう。そう思ってそわそわとしている割に働く気配のないふたりに、「早くしろ」と言うと思わぬ返事が返ってきた。

「なんかさぁ・・・」
「なんだ?」
「紺ってお母さんっぽいよなぁ」
「あーわかる、それ」
「だろ?」

酷く呑気な会話だ、このままの調子でいったら自分達も帰れないってことこいつらはわかっているのだろうか。というか、お母さんっぽいってなんだ。色々と言いたいことが頭の中で山積みにはなったが、このまま夜が明けてしまうことを思うとなんだかどうでもよく思えてきて、もう一度「早くしろ」とだけ言い放つ。ほんの少しの間、お母さんっぽいとか妙な会話で盛り上がっていたふたりだったが自分の一声で現実に戻って来ました、というようにせかせかと片づけを始めていた。もう一度、溜息をついて呆れてみる。たぶん、
自分がお母さんっぽいわけではなくこいつらがガキなだけなのだ。そう思うことに決めてみた。







080216
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